紛争の内容
ご相談にいらしたのは、まだ二十代前半の若い依頼者でした。もともとは、ご実家でご家族とともに堅実に暮らしておられた方です。最初のつまずきは、ごくささやかなものでした。就職して間もないころ、携帯電話の本体代金を分割で支払うことにした。金額にして十数万円ほど。誰もがしているような、ありふれた買い物です。同じころ、通勤の足として自動車を購入されましたが、これも一台の車がないと不便な地域にお住まいで、免許も取得しておられたことを思えば、決して身の丈に合わない浪費とはいえないものでした。事実、そのローンも、毎月きちんと支払い続けておられたのです。
歯車が狂い始めたのは、ご家族との折り合いがつかず、ご実家を離れることになってからでした。慣れない一人暮らしのなかで、家計をどう管理すればよいのかが分からず、食事はほとんど外食で済ませる日々が続きます。若さゆえの生活設計の未熟さから、日々の生活費はみるみる膨らんでいきました。定期代を立て替える必要に迫られては消費者金融から借り入れ、返済のためにまた別の会社から借り入れる。そうして借金は雪だるま式に膨らみ、気づけば複数の貸金業者やクレジット会社に対し、総額二百万円を超える債務を抱えるに至っていました。毎月返済すべき金額はおよそ十二万円にのぼり、若い依頼者の収入では、到底支払いきれない状態に陥っていたのです。
ここで大切なのは、依頼者が、夜の街での遊興や、ギャンブル、投資といった、いわゆる非難されるべき使い方に一円も費やしていなかったという事実です。借金の膨張は、あくまで一人暮らしを始めた若者が、家計管理に不慣れなまま日常の生活費を重ねてしまった結果でした。当職は、この依頼者の再出発を法的に支えるべく、自己破産の申立て代理人として本件に取り組むことになりました。
交渉・調停・訴訟等の経過
自己破産の手続きには、大きく分けて二つの道があります。一つは、破産管財人が選任され、その調査のもとで手続きが進められる管財事件。もう一つは、めぼしい財産がなく、免責を妨げる事情も見当たらない場合に、管財人を選任せずに手続きを終える同時廃止です。管財事件となれば、依頼者は破産管財人へ引き継ぐための予納金として、二十万円ほどを別途負担しなければなりません。生活を立て直そうとしている依頼者にとって、この二十万円は決して小さな額ではありませんでした。
そこで当職が見据えたのは、いかにして同時廃止による解決へ導くか、という点でした。本件で慎重な検討を要したのは、免責不許可事由の有無です。とりわけ、依頼者が抱えた最も大きな債務が自動車ローンであったこと、そして生活費のために借入れを重ねていたことが、法律のいう「浪費」や「射幸行為」にあたるのではないかが、問題になり得ました。
当職は、この点について丁寧に主張を組み立てました。自動車を購入した時点では依頼者は正社員として安定した収入を得ており、移動手段としての実用性も踏まえれば、その購入は身の丈に不相応な浪費とは到底いえないこと。借入れが増えた主たる原因は、あくまで一人暮らしを始めた若者の家計管理の不慣れにあり、遊興やギャンブルといった悪質な使途は一切存在しないこと。これらを、家計の状況を示す客観的な資料とともに、裁判所へ具体的に説明していきました。あわせて、依頼者が現在はご実家に戻り、お母様の厳格な監督のもとで家計の透明化を図り、収支状況が大幅に改善・安定していることも示しました。仮に過去の支出に「浪費」と評価され得る面があったとしても、深く反省し生活を立て直している以上、裁量による免責が認められるべき事案であることを、あわせて上申したのです。
そのうえで当職は、財産の面からも同時廃止が相当であることを明らかにしました。財産目録のとおり、依頼者には換価の基準となる二十万円を超える財産はなく、資産の総額は自由財産の範囲を大きく下回っていました。仮に管財事件として進めたとしても、換価すべき財産はなく、債権者への配当は見込めない。それにもかかわらず管財人を選任すれば、依頼者は二十万円の予納金を負担することになってしまう。当職は、あえて破産管財人を選任してまで免責調査を実施すべき事案ではないことを、理由を尽くして裁判所に上申しました。
本事例の結末
こうした主張が受け入れられ、本件は破産管財人を選任することなく、同時廃止事件として手続きが進められることになりました。その結果、依頼者は約二十万円の予納金という負担を負うことなく、無事に免責の許可を得ることができたのです。
二百万円を超える債務から解き放たれた依頼者は、いま、ご実家でお母様の支えを受けながら、堅実な生活を一から築き直しておられます。二度と借入れに頼ることのない暮らしへ。若い依頼者にとって、この免責は、単に借金が消えたという以上に、人生を仕切り直すための、かけがえのない再出発の一歩となりました。当職としても、これからの長い人生を歩んでいく若者の背中を、こうした形で押すことができたことに、大きな意義を感じています。
本事例に学ぶこと
自己破産と聞くと、人生の終わりのように受け止めてしまう方が少なくありません。しかし本来、免責という制度は、経済的に行き詰まった方が生活を立て直すための、法律が用意した再出発の仕組みです。とりわけ本件のように、遊興やギャンブルといった後ろ暗い理由からではなく、若さゆえの生活設計の甘さから借金を重ねてしまったという場合、それを過度に恥じて一人で抱え込む必要は決してありません。
本件が示すもう一つの教訓は、同じ自己破産であっても、その進め方によって依頼者の負担が大きく変わり得るということです。財産がなく免責を妨げる事情もない事案では、同時廃止という道を的確に選び取り、それを裏づける資料とともに丁寧に裁判所へ上申することで、二十万円ほどの予納金を節約できる場合があります。もっとも、免責不許可事由に触れかねない事情がある場合には、なぜ免責が認められるべきなのかを法的に整理し、説得的に主張することが欠かせません。ここに、代理人として関与する意義があります。
借金の返済に追われ、出口が見えないと感じておられる方へ。その状況は、決してご自身一人の努力だけで抜け出さなければならないものではありません。適切な手続きを選び、必要な主張を尽くすことで、負担を抑えながら再出発を図れる道は、きっと残されています。とりわけお若い方にとっては、早い段階で立て直すことが、その後の人生を大きく左右します。どうか一人で悩まず、早めにグリーンリーフ法律事務所にご相談ください。私たちは、皆様が新たな一歩を踏み出せるよう、力を尽くしてまいります。
弁護士 時田 剛志








