紛争の内容

依頼者の方は、家庭の事情により、多額の金員が必要となり、金融機関から借入を行いました。その後、毎月約定通りに金融機関に借入金の返済を行ってきましたが、勤務先の給与が減額されるに至ってしまいました。さらに、ライフステージの変化により、子どもの学費が大きくかさむようになってしまいました。これらの事情により、約定通りの借入金の返済の目途が立たなくなり、弊所へご相談されることになりました。

交渉・調停・訴訟などの経過

依頼者は、まとまった金額の子どもの学費を支払う必要があり、相談時点で破産の方法を採ることはできませんでした。そこで、債務の支払金額を圧縮する、小規模個人再生の方法を採ることとしました。
ご依頼いただいてから、弁護士費用の分割支払いが終わり、裁判所へ再生手続申立ての準備を進めていました。ところが、依頼者の方の賞与金額が大きく、毎月の給与と賞与を合わせて家計の帳尻を会わせるという生活をしていたため、単月ベースで見ると、家計の状況は赤字となってしまいました。そのため、そのまま申立てをすると、再生委員という別の弁護士が就き、再生委員のための予納金の支払い及び履行テスト(今後、再生計画案通りの金額を毎月支払っていけるのかどうかをチェックすること)の時間を要することとなってしまうおそれがありました。
また、子どもの進学のための学費としてまとまった金員を支払う予定があり、そのために確保する賞与分入金後の預貯金の金額が高額となり、清算価値弁済(退職金受取見込額を含む債務者の財産総額を基にした分割弁済)となってしまうおそれがありました。
そこで、申立ての時期を遅らせ、依頼者に家計の状況を整えていただき、かつ、子どもの学費に充てるための賞与を受領する以前のタイミングで再生手続開始決定が出るようにしました。さらに、申立てにあたって、裁判所に対し、賞与を原資とする子どもの学費のためのまとまった特別支出が発生することを上申し、当該賞与を基にした清算価値弁済にならないよう、出来る限りの手当をしていきました。

本事例の結末

最終的には、再生委員が就くことがなく、また、清算価値弁済になることもなく、債務総額の5分の1を36ヶ月で弁済することを内容とする再生計画が認められるに至りました。

本事例に学ぶこと

民事再生手続の場合、むやみに早く申立てをすることが、かえって依頼者の不利益に繋がる場合があります。他方、申立てが遅れると、債権者から訴訟を提起され、給与差押え等をされてしまうリスクもあります。申立て後の見通しを考慮しながら、依頼者に生活環境を整えていただき、慎重に申立て時期を検討したことが奏功した事例となりました。

弁護士田中智美・弁護士平栗丈嗣