紛争の内容
ご相談にいらしたのは、かつて会社の代表を務めておられた方でした。若くして事業の世界に飛び込み、経営の中心を担うようになり、公私ともに充実した日々を送っておられた時期もありました。しかし、事業の拡大を目指して設備投資に踏み切った頃から、歯車が狂い始めます。
事業を拡げるための資金として、会社は金融機関から融資を受けました。その際、代表者であった依頼者は、会社の債務について連帯保証人となりました。中小企業の経営者にとっては、ごく当たり前の光景です。しかし、会社の経営が想定どおりに進まず、資金繰りが悪化していくなかで、追加の融資を受けるたびに、依頼者の背負う保証債務は膨らんでいきました。
経営の悪化は、依頼者個人の生活にも直接影を落としました。役員報酬が支払われない月が生じ、生活費が不足する事態に陥ったのです。依頼者は、その不足を貸金業者からの借入れで賄うようになりました。さらに、収入が不安定になっていたにもかかわらず、それまでの生活水準を落とすことができず、支出を切り詰められないまま、クレジットカードの利用残高も膨らんでいきました。
やがて依頼者は経営の一線から退き、その後も会社の業績は好転せず、ついに会社は事業を畳むこととなりました。残されたのは、多額の法人債務についての連帯保証と、個人としての借入れです。とても返済できる見込みはありませんでした。
そして、依頼者を苦しめていたのは、経済的な行き詰まりだけではありませんでした。長く関係を築いてきた共同経営者との間には溝が生まれ、家庭の状況も変わり、依頼者は精神的にも大きな負担を抱えておられました。手続を進める気力そのものが削がれかねない、そうした状態からのご相談でした。
交渉・調停・訴訟等の経過
当職がまず心を配ったのは、依頼者のお気持ちを支えることでした。
自己破産の手続は、書類を揃えて申し立てれば済むというものではありません。過去の収支や財産の状況を細かく振り返り、なぜこうなったのかを言葉にしていく必要があります。それは、自らの失敗と正面から向き合う作業でもあります。精神的な負担を抱えておられる方にとって、この過程は決して楽なものではありません。実際、途中で手続を投げ出してしまう方も少なくないのです。
そこで当職は、依頼者のペースに配慮しながら、一つひとつの段階を一緒に進めていく姿勢で臨みました。何をいつまでに用意すればよいのか、この先どのような手続が待っているのか、どこで何が起こり得るのか。見通しを具体的にお示しすることで、先の見えない不安を少しでも和らげられるよう努めました。
本件では、法人の連帯保証債務を含む多額の負債があり、また依頼者が会社の代表者であったという経歴からも、破産管財人が選任されることは避けられない見込みでした。実際、裁判所は破産管財人を選任し、依頼者の財産状況や、負債が膨らむに至った経緯についての調査が行われることとなりました。
管財事件においては、破産者が管財人の調査にどう向き合うかが、結果を大きく左右します。そこで当職は、申立ての段階から、借入れが増えていった経緯を時系列に沿って正確に整理し、隠し立てのない形で書面にまとめました。生活水準を落とせなかったこと、支出を切り詰められなかったこと、そうした自らに不利な事情も含めて、率直に記載したのです。免責との関係で問題になり得る事情を隠したり、体裁を取り繕ったりすれば、後の調査で必ず露見し、かえって不利な判断を招きます。当職は、依頼者にもその点を丁寧にご説明し、誠実な対応を貫くという方針を共有しました。
そのうえで、管財人からの照会や資料の求めには、迅速かつ的確に対応していきました。精神的な負担を抱えておられる依頼者に代わって当職が窓口となり、必要な確認を整理してお伝えするなど、依頼者が過度な重圧を感じることのないよう配慮しながら手続を進めました。その結果、管財人による調査は特段の問題を生じることなく進み、手続は滞りなく完了しました。
本事例の結末
こうして、依頼者に対する免責の許可を得ることができました。法人の連帯保証債務を含む多額の負債から解き放たれ、依頼者は経済的な再出発の機会を手にされたのです。
現在、依頼者は個人事業主として、新たな形で生計を立てておられます。会社の代表という立場を失い、長年の人間関係にも傷を負い、精神的にも追い詰められていた方が、法の定める手続を経て、もう一度自分の足で歩き始められた。当職にとっても、深く印象に残る事案となりました。
破産手続は、書面を整えて終わりではありません。とりわけ精神的な負担を抱えておられる方にとっては、最後まで走り切ること自体が容易ではないのです。本件で無事に免責までたどり着けたのは、依頼者が誠実に向き合い続けてくださったからにほかなりません。当職は、その歩みに伴走したにすぎないと考えています。
本事例に学ぶこと
まず知っておいていただきたいのは、会社の連帯保証は、経営者個人の人生を左右し得るということです。中小企業では、代表者が会社の借入れについて連帯保証をすることが一般的です。会社が順調なうちは意識されませんが、ひとたび経営が傾けば、その債務はそのまま個人に降りかかってきます。会社が破産して債務が消えても、保証人である代表者個人の債務は残るのです。だからこそ、会社の破産を考える段階では、経営者個人の債務整理についても、同時に検討しておく必要があります。
次に、破産管財人が選任されることを、過度に恐れる必要はないということです。法人の代表者であった方や、負債の規模が大きい方の場合、管財人が選任されるのは通常のことです。大切なのは、その調査に対して誠実に向き合うこと。財産を隠したり、不利な事情を伏せたりすれば、免責の判断に響きかねません。逆に、包み隠さず経緯を説明し、求められた資料を的確に提出していけば、手続は滞りなく進んでいきます。
そして、経済的な行き詰まりは、しばしば精神的な不調を伴うということです。事業の失敗、人間関係の破綻、家庭の変化。それらが重なれば、心が押し潰されそうになるのは当然のことです。そうした状態で、複雑な法的手続を一人で進めるのは、あまりに酷なことです。手続を進める気力が湧かず、そのまま問題を放置してしまう方も少なくありません。しかし、放置すれば状況は悪化するばかりです。
自己破産は、行き詰まった方が人生をやり直すために、法律が用意した再出発の制度です。事業に失敗したことも、生活の見通しが甘かったことも、それ自体が人生の終わりを意味するわけではありません。「もう自分にはどうしようもない」とお感じの方こそ、どうか一人で抱え込まず、グリーンリーフ法律事務所にご相談ください。私たちは、皆様の真摯な対応を法的な側面から後押しし、伴走してまいります。
弁護士 時田 剛志






