紛争の内容

1 多額の負債の原因

依頼者は、平成5年ころは車両整備士をして、手取り15万円弱でした。

実家暮らしのため、給与の半分くらいをパチンコ・パチスロに費やしたとのことです。

その後には、ボートレース(競艇)やJRAの競馬もネット購入していたとのことです。

今回、当事務所に相談し、債務整理を依頼するまで、クレジットカードなどでキャッシングを行い、ギャンブルをするために、借りてはやり、また、ギャンブルに負けてはさらに借り入れてやっていたとのことです。

このようなギャンブルにのめり込んでいた時には、自分の収入以上に掛け金をかけていたのではないかとも述べていました。

2 過払い金の回収

平成30年ころ、依頼者は、完済していた消費者金融2社に対し、司法書士に依頼をして、過払い金を回収したそうです。

3 負債の増大

新型コロナウィルス禍で、600万円近くに負債が増大してしまいました。

依頼者は、令和4年12月、自家用車を売却して、返済に充てたそうです。

コロナ禍前より、給与が10万円以上減額となり、コロナ禍の影響を原因と収入減が証明できれば、コロナ支援金として借り入れられるとして、社会福祉協議会から、総額200万円を借り入れ、それを、生活費と返済に回しましたが、それでも足らなくなり、携帯電話料金とともに払う、キャリア決済も利用しましたが、やはり、翌月一括支払いとなり、より返済がきつくなったそうです。

4 就業不安は現実化せず、収入減少はしていない

依頼者の職業は、トラックドライバーでした。

ドライバーについては、2024年問題があり、労働環境が変わり、収入も減少する可能性も想定されましたが、その問題もクリアでき、その後の収入にそれほど影響はないことが判明しました。

5 実家暮らしで、可処分所得が大きいこと。

依頼者は、実家で、年金暮らしの親と同居しています。

平日は、勤務先のトラック駐車場の、トラック内のスペースで寝泊まりし、週末実家に帰る生活を続けていました。実家には毎月5万円を入れているが、依頼者は、平日は三食とも外食であるため、食費はかかりがちであり、ひと月10万円を超えることもしばしばでした。

交渉・調停・訴訟などの経過

依頼者から、債務整理の相談を受け、ギャンブルで多額の負債を負ったことから、破産手続でも管財事件となること、家計の余裕があるなら、個人再生とすることとしました。

ある消費者金融から取引履歴の開示を受けると、過払い金が発生していることが判明しました。

100万円弱の金額ですので、同社に対して、過払い金支払請求書を送付しても、すぐに返済してくれるはずもなく、速やかに訴訟を提起しました。

過払い金の返還請求の訴訟において、消費者金融が負担した返済時の振り込み費用負担の問題がありましたが、第3回期日を経て、裁判所より和解に代わる決定がなされ、ほぼ満額を回収しました。

依頼者の給与は十分にあり、債務総額の2割であれば、3年の分割返済が可能である見込みが立ちました。

そこで、個人再生手続によることとし、毎月の家計簿を正確につけてもらいました。

ところで、令和6年7月、8月の家計簿を確認すると、それまでも高額になりがちであった食費が、ひと月11万円を超えるようになっていました。

この理由を問うたところ、令和6年の猛暑に対応するため、水分補給、積み荷の荷下ろし後のクールダウンのために、良く冷えたドリンクやアイスなどを購入していたこと、そうでもしなければ、「死んでしまうよ」とのことでした。

本申立を行いましたところ、やはり、継続的安定的な収入は確保できているが、その使途、特に食費が過大ではないか、また、2024年のドライバーの労働時間規制により、手取り収入が減額されていくのではないか、それでもこの家計で、将来の再生計画における返済が履行確実かを見極めるために、個人再生委員として、弁護士が選任されました。

個人再生委員の弁護士からも、家計における食費の増大回避、そして、し好品である煙草代の出費に留意するよう指示されました。

猛暑も明け、秋口となりましたので、飲料水代などはそれほどかからなくなり、煙草代も一定額に抑えることができました。

収入は安定し、特に問題は見当たりませんでした。さらに、将来の返済に耐えうるような家計のコントロールもかないました。

本事例の結末

裁判所、個人再生委員の危惧を払しょくしましたので、依頼者はめでたく、再生計画は認可されました。

認可決定が確定し、各債権者から振込先口座を確認し、計画に基づいた支払が可能となるように整え、当事務所の任務は終了しました。

本事例に学ぶこと

依頼者は、600万円以上の負債を抱え、また、依頼時には、2024年問題によりドライバーの給与が減額されるのか不明の段階でした。

大幅な減額がなされるときには、返済余力がなく、破産やむなしとの方針で臨みました。

新年度になり、労働時間規制による収入の減額もそれほどないことが判明し、免責不許可事由があること、そして、実家に5万円を入れていても、依頼者が家計をやりくりすることで、月々の返済原資を十分にねん出可能であると判断し、個人再生手続の選択となりました。

600万円以上の負債額ですと自己破産を希望される方が多いですが、免責不許可事由の有無、依頼者の収入状況、扶養している子らの事情など将来の支出見込みなどを総合して、個人再生手続とすることを了解してもらいます。

他方、すべての事情を総合して、やはり、自己破産やむなしとなる方もあります。

依頼を受けた弁護士は依頼者の希望を尊重しますが、申立準備中に判明した事情を総合して、自己破産ではなく、個人再生を、個人再生ではなく、自己破産が最適だとアドバイスすることがあります。

よろしくご承知おきください。

弁護士 榎本 誉