紛争の内容
破産者の破産申立依頼前の、保有車両の売却の対価の相当性(免責不許可事由の有無)が問題となった事案。

交渉・調停・訴訟等の経過
破産した会社は、分譲マンションの販売会社から依頼を受けて、そのモデルルームを製作する建築会社です。

モデルルームの製作依頼は、その販売会社の一担当者から、直接指名を受けて、各モデルルーム設置場所に出向いて、販売会社が用意した資材を用いて、モデルルームを製作していました。

製作に携わる従業員も多い時には、8名を有し、相応の年商を上げていました。

しかし、販売会社の担当者の退職に伴い、同販売会社からの指名(受注)が減り、廃業を決意する数カ月前には、代表者と一名の従業員となりました。

代表者は、会社の運転資金の連帯保証人でもありましたので、経営する会社の破産申立とともに、代表者も自己破産しました。

代表者は、本体価格539万円ほどのいわゆる米国トヨタ製の逆輸入車(1年落ちの中古車)をフルローン(総額664万円)で購入していました。これを破産申立に当たり、残ローンを賄える金額200万円弱で売却していました。

車両の価格については、いわゆるレッドブックなどを参照することによって調査しますが、本件車両については、レッドブックでは該当しませんでした。

そこで、インターネット検索をして、当該車両の買取相場を調査しました。

アメリカ合衆国にある日本(車)メーカー製の逆輸入車ということから、車検証に記載されているシリアル番号(USトヨタで採用されているVINコード)の記載から、当該車両が2016年始期であり、翌2017年に代表者はローン購入したことが判明し、新車ではなく、中古輸入車であることが判明しました。

これを破産手続開始決定の1年前に、残ローン価格と同額の198万円余りで売却しています。

車検証からは当該車両のグレードが明らかになりませんが、代表者を聴取しましたところ、具体的なグレードが判明しました。

それらをもとに、中古車買取事例をインターネット検索しましたところ、複数の買取サイトがヒットしました。しかし、その買取価格(相場)は、同年式の同グレードであっても、金23万円から金611万円と大きな幅があることが判明しました。

さらに、代表者に当該車両の状況について聞き取りしました。

代表者によると、当該車両には、カーナビも付属せず、シンプル(ベーシック)な装備であり、車両の程度は、外装(塗装)に荒れが見られ、極上や上物とは到底言えない状態であったと説明します。

そして、代表者が購入した際の購入価格(本体価格539万円)は、(正規輸入がない)並行輸入車であっても、破格に低額な値段であったといいます。

また、その後、代表者使用中に、フロントバンパーを破損したところ、その修理代は40万円近くと高額であったことから、補修せずに使用していたこと、この車両のオートマチックトランスミッションには不具合があり、その対応、修繕も未了であったとのことで、車両の状態としてはまり良くなかったようでした。

代表者は、当該車両を5年ほど保有しておりましたが、その状態は決して良好ではなく、上記の不具合があるまま(未補修の状態の現状)で、懇意の販売店に、せめて残ローン価格で購入してもらいたいとして、購入してもらったとのことでした。

代表者から聴取した車両の状態と、買取価格の幅に照らすと、本件車両は不相当に低廉な価格で売却されたものではないと評価しました。

よって、管財人としては、本件代表者の当該車両の売却甲は、破産者の責任財産の不利益処分に該当しない(252条1項1号の免責不許可事由に該当しない)と判断しました。

その他の免責不許可事由に該当する事情は一件記録や破産者からの事情聴取においても認められませんでしたことから、免責不許可事由に該当する事情は認められないと、裁判所に意見を提出しました。

本事例の結末
会社代表者でもあった本破産者の破産手続は異時廃止により、そして、多額の破産債権については裁判所より免責の許可の決定を受けました。

本事例に学ぶこと
会社法人とともに、会社の運転資金の保証している破産会社の代表者も自己破産、免責の許可を受けて経済的に再出発をします。

その際に、破産申立に至る中での、保有財産の売却処分が免責不許可事由にとしての、責任財産の不当廉売に該当しないかが問題となる場合があります。

管財人として、その調査をすることになりますが、破産申立代理人としては、破産申立て予定者が保有財産を売却処分することを考えている場合には、万が一の免責不許可事由の該当性を危惧し、複数見積(いわゆる相見積もり)を取得し、不当廉売ではないことの資料を備えることが必須であるとアドバイスし、無用な調査を回避するようアドバイスします。

本件は、申立代理人に破産申立を相談し、依頼する前であったため、申立代理人のアドバイスをもらっていなかったようでした。

この破産者のように、せめて残ローン以上の価格で売却したい、購入してもらいたいという要望や希望を持つことは理解できますが、所有動産・不動産の事情によっては、残ローン以上の換価価値を保有している場合がありますので、慎重な対応が不可欠です。

拙速な処分は控え、弁護士に相談してもらいたいものです。

弁護士 榎本 誉