紛争の内容

Aさんは10年程前に離婚し、子供の養育費として毎月9万円を支払う旨の公正証書を作成しました。その後数年間は養育費を約束どおり支払っていたAさんですが、仕事のストレスから飲酒やギャンブルにお金を使うようになり、自分の生活費や養育費の支払いのためにカードで借金をするようになりました。
気が付くと、借りては返すの自転車操業状態となり、養育費の支払いもできなくなりました。
消費者金融や銀行からの借入総額が1,000万円を超えたところで、このままではいけないと当事務所に相談に来られました。

交渉・調停・訴訟などの経過

会社員のAさんには月45万円の安定的な収入があったこと、破産では免責不許可となる事由(飲酒、ギャンブルなどの浪費)があったことから、債務整理の方法として個人再生を選択することにしました。
問題は未払いの養育費で、総額500万円弱が残っていました。このうち、これまでに支払期限が到来している分については、非減免債権ではあるものの、再生計画に従った弁済期間中は他の一般債権同様に圧縮された金額を毎月払えば済むのでよいのですが、これから支払期限が到来する分については、債権者(元妻)は再生手続に拘束されることなく毎月請求することが可能です。
しかし、いくらAさんが生活を切りつめても、再生計画に従った月々の弁済にプラスして月9万円もの養育費を支払うことは不可能でした。
そこで、弁護士から元妻に連絡を取って事情を説明したうえで、Aさんの経済的再生のために、これから支払期限が到来する分についても毎月の権利行使はせず、再生計画による弁済が全て終わってからの分割払いとする旨の了解をいただき、その旨の上申書も作成して、裁判所に提出してもらいました。

本事例の結末

無事に再生計画案が認可され、養育費を除くAさんの負債を2割程度に圧縮することができました。

本事例に学ぶこと

将来に向かっての多額の養育費の未払いがある場合、債権者は再生手続に縛られることなく、期限が到来する都度満額を請求することが可能です。従って、債務者の家計上、その負担に耐えられるだけのさらなる余剰が出せなければ、再生計画案を認可してもらうことはできません。
本件は、債権者である元妻が親身にこちらの話を聞いてくれ、快く協力してくれたからこそ認可を勝ち取ることができた事案であり、Aさんにとっては非常に幸運であったと思います。

弁護士 田中 智美