
個人事業主の皆さんは、「自分がもっと頑張れば、状況が変わるかもしれない」「お世話になった取引先や、信頼してくれている顧客にだけは絶対に迷惑をかけられない」という強い責任感から、ご自身の生活費を削ったり、個人のカードローンから事業資金を補填したりして、なんとか事業を継続しようと努力する方も多いかと思います。
しかし、経営努力だけではどうしても解決できない限界が訪れることもあります。その際、頭をよぎるのが「自己破産」という選択肢ではないでしょうか。
自己破産と聞くとなんとなくネガティブな印象を持つ方もいるかと思いますが、自己破産は決して人生の終わりを意味するペナルティではありません。むしろ、膨らんでしまった債務を一度法的にリセットし、あなたがもう一度前を向いて新しい人生をスタートさせるために国が作った「再起のための制度」です。
そして、個人事業主の方の自己破産は、会社員(給与所得者)の自己破産とは異なり、事業用資産の処分や取引先への対応など、事業主ならではの複雑なハードルや注意すべきポイントがいくつも存在します。良かれと思って行った行動が、のちの手続きで大きな不利益を招いてしまうことも少なくありません。
そこで本コラムでは、自己破産がどのような手続きであるのか解説したうえで、個人事業主が自己破産する際の注意点について解説します。
自己破産の概要

自己破産とは、債務の返済が苦しくなってしまった場合に、支払いの全額または一部を免除してもらう等の方法によって債務に関する悩みを解決できる制度である債務整理の手続きのうちのひとつです。
債務整理には、自己破産、個人再生、任意整理といった手続きがあります。
そのうち自己破産は、債務者の収入や財産では債務の返済ができなくなってしまった場合に、裁判所に申し立て、債務の返済義務を免除してもらうことで破綻してしまった生活を立て直すための手続きです。
自己破産の要件

自己破産が認められるためには、以下の要件を満たしている必要があります。
支払不能の状態であること
破産法第2条11項は、「支払不能」とは、債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態と規定しています。
すなわち債務者の方の資産・負債の状況、収入・支出、債務者の方の信用等を考慮して判断されます。
免責不許可事由がないこと
以下の免責不許可事由があると、原則自己破産が認められないことになります(破産法252条各号)。
- 債務者の財産を不当に減少させる行為
- 不当な債務負担行為
- 特定の債権者に利益があるように支払いをする行為
- 浪費やギャンブルによる借り入れ
- 詐術による信用取引
- 帳簿を隠す行為
- 虚偽の債権者名簿を提出する行為
- 裁判所への説明を拒絶したり、虚偽の説明をしたりする行為
- 破産管財人等の業務を妨害する行為
- 過去7年以内に免責を受けたことがある場合
- 破産法上の義務違反行為
もっとも、免責不許可事由があっても、自己破産に至った経緯や反省の態度、誠実な手続き協力などを総合的に考慮し、裁判所の判断で免責を許可すること(裁量免責 破産法252条2項)も広く認められていますので、免責不許可事由があったとしても自己破産が認められる可能性は十分あります。まずは弁護士にご相談ください。
自己破産による債務者の債務に生じる効果

自己破産をすることによって、非免責債権(※)を除いてすべての債務の支払い義務がなくなります。
(※)非免責債権には以下のものなどがあります。
- 租税等の請求権
- 悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
- 婚姻費用又は養育費
自由財産を除く財産の処分がされてしまう

一方で、債務者の財産は、自由財産(原則99万円までの現金)を除き、換価され、債権者に配当されてしまいます。
したがって、自動車などの財産は原則手元に残すことはできません。なお、このような財産でも裁判所の許可を得て自由財産として残すことができる場合もあります(自由財産の拡張と言います)のでまずは弁護士にご相談ください。
自由財産とは
破産手続きは、破産者の有する財産を債権者に公平に分配することを目的とされるとともに、債務者の経済生活の再生の機会の確保を図ることも目的とされています。そのため、債務者の全ての財産を換価し債権者に配当してしまうと、債務者の手元に財産が無くなり生活できなくなってしまうため、経済生活の再生の機会を確保できなくなってしまいます。
そこで、破産法では、破産手続きが開始しても、破産管財人の管理に属せず破産者が自由に管理・処分できる財産を認めており、この財産のことを自由財産といいます。
自由財産には以下のような財産があります。
- 破産手続開始後に破産者が新たに取得した財産(新得財産)
- 99万円以下の現金
- 差押禁止財産(生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用品、畳及び建具など)
もっとも、このような財産でなくとも破産者の生活において必要不可欠である財産は、例外的に自由財産として手元に残せる可能性があります(自由財産の拡張)。
自由財産以外を手元に残す方法―自由財産の拡張
自由財産の拡張とは、裁判所の許可を得て、一定の範囲の財産を自由財産として破産者の手元に残せるようにする手続きです(破産法34条4項)。
破産法では、自由財産の拡張は、破産者の生活の状況、破産手続開始の時において破産者が有していた財産の種類及び額、破産者が収入を得る見込みその他の事情を考慮して決定すると規定されています。一般的に、預貯金、保険解約返戻金、自動車などについて拡張が認められています。
個人事業主の売掛金や業務に必要な備品などは一般的に自由財産の拡張は認められていませんが、その財産が破産者の経済再生に必要かつ相当と認められる場合、例外的に自由財産の拡張が認められることもあります。
信用情報に傷がつく

自己破産するとおよそ7年間ブラックリストに載ってしまい、新しく借金をすることができなくなったり、クレジットカードを作ることができなくなったり、住宅ローンが組めなくなったりといった弊害が生じます。また、個人事業虫のばあ、事故情報が登録されている場合は、事業資金の融資の審査が通りにくくなってしまいます。
資格制限がある

また、自己破産を申し立てて開始決定が出た時点から、手続きが終了するまで、各種士業や警備員、保険外交員などの一定の職業に就くことができないことになるため、このような職業の方は注意する必要があります。
個人事業主の場合の自己破産の注意点

個人事業主が自己破産をする場合、一般的な会社員の方の自己破産の場合と異なり、以下のような注意点があります。
原則として管財事件となる

自己破産を申し立てると、管財事件と同時廃止事件に振り分けられます。
管財事件とは、破産管財人が選任されます。そして破産管財人が、破産者の財産を換金して現金を確保し、債権者に配当したり、免責不許可事由があるかどうかの調査等の職務を行います。
同時廃止事件とは、破産管財人が選任されることなく、破産手続き開始の決定と同時に破産手続き廃止の決定をするものをいいます。
個人事業主が自己破産をする場合、原則的に管財事件となります。管財事件の場合、裁判所に納める予納金という費用が最低でも20万円かかります。そのため、個人事業主の場合は、弁護士費用とあわせて、一定の資金を準備する必要があります。
事業継続はできない可能性が高い

事業用の財産も管財人による換価・処分の対象となります。また、事業に必要な契約(事業に必要な物件の賃貸借契約、従業員との雇用契約、仕入れ先との継続的な取引契約、備品などのリース契約など)についても解除されてしまいます。
そのため、個人事業主は、自己破産をすると事業をこれまで通りに継続することが現実的に不可能となります。
もっとも、自己破産の手続きが終了し債務の免責を受けた後であれば再び事業を始めることは可能です。
売掛金について

個人事業主の収入源である売掛金の取り扱いは破産手続き開始決定のタイミングによって異なるので注意が必要です。
破産手続き開始決定前に生じた売掛金を破産手続き開始決定後に回収する場合、その売掛金は、破産管財人が回収し、債権者への配当に使います。
一方、破産手続き開始決定前にすでに支払われている売掛金や、破産手続きの開始決定前に生じた売掛金については、個人事業主の財産として扱われます。
裁判所が自己破産の申立後に破産手続き開始決定をいつ出すのかをコントロールすることは難しいです。そのため、手元に一定期間生活できる程度の預金を残した状態で自己破産の申し立てをすることを検討することが必要です。
免責されない債務に注意

自己破産をしても、非免責債権という債務については支払い義務が免除されません。未払いの税金や社会保険料がこれに当たります。個人事業主で従業員を雇用している場合には、従業員への未払い給与も非免責債権となります。
そのため、破産手続き終了後も、未払いの税金や社会保険料及び従業員への未払い給与については支払いを続ける必要があります。
まとめ

- 自己破産を申し立てるためには、支払不能であること、免責不許可事由がないことが必要である。
- 免責不許可事由がある場合でも裁量免責が認められる場合がある。
- 自己破産の場合、非免責債権(未払いの税金や社会保険料、未払いの従業員の給与等)を除いて、すべての債務の支払い義務がなくなる。
- 個人事業主の破産の場合、管財人によって、事業に関する契約が解除され、備品も換価されてしまう可能性があり、現状通り事業を継続することは難しい。
- 債務の返済で苦しんでいる方は、まずは弁護士に相談を。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。









