紛争の内容

ご相談にいらしたのは、決して収入の少ない方ではありませんでした。むしろ、勤務先から相応の給与を得ておられ、経済的な基盤そのものは安定していた方です。それでも、返済しきれない借金を抱え、出口を求めて当事務所を訪ねてこられました。

依頼者のお気持ちには、はっきりとした軸がありました。「できることなら、借りたお金は返したい」という強い思いです。債務整理と聞くと、借金を帳消しにする手続ばかりが思い浮かぶかもしれません。しかし依頼者は、そうした形での解決を望んでおられませんでした。返せる範囲で誠実に返したい――その意向は、当職から見ても揺るぎないものでした。

もっとも、事情を伺っていくうちに、慎重な検討を要する点が浮かび上がりました。借入れに至った経緯のなかに、自己破産を選んだ場合には免責不許可事由に当たると評価されかねない事情が含まれていたのです。破産手続を選択すれば、破産管財人が選任されて免責の調査が行われ、その結果によっては免責が認められない可能性も否定できません。仮に裁量によって免責が認められるとしても、相応の時間と費用、そして精神的な負担を伴うことになります。

依頼者の返済意欲、安定した収入、そして免責をめぐる不確実性。これらを総合すれば、進むべき道は自ずと見えてきました。当職は、自己破産ではなく、小規模個人再生の申立てを進めることをご提案したのです。

交渉・調停・訴訟等の経過

小規模個人再生とは、住宅ローンを除く借金を大幅に圧縮したうえで、原則として三年間で分割返済していくという再生手続です。財産を手放すことなく、また免責不許可事由の有無を問われることもなく、債務を整理して生活を立て直すことができます。返済の意思と、それを支える継続的な収入がある方にとっては、まさに適した制度といえます。

もっとも、この手続にも越えるべきハードルがあります。とりわけ本件で問題となり得たのが、清算価値保障原則でした。これは、再生計画によって債権者に支払う総額が、仮に破産していた場合に債権者へ配当されたであろう金額(清算価値)を下回ってはならない、という考え方です。つまり、手元に財産が多くあれば、その分だけ返済すべき金額も膨らむことになります。

本件の依頼者は、勤務先からインセンティブ報酬を受け取るなど、収入の構造がやや複雑でした。こうした報酬や、それに関連して積み上がった資産をどう評価するかによって、清算価値は変わり得ます。ここを曖昧なまま申し立てれば、裁判所から疑義を呈され、追加の調査を求められることにもなりかねません。

そこで当職は、財産関係を一つひとつ丹念に洗い出し、その内容と評価の根拠を明確にしたうえで申立書に反映させていきました。収入の内訳、報酬の性質、資産の状況、そして再生計画に基づく弁済がなぜ確実に履行できるといえるのか。裁判所が知りたいであろう事柄を先回りして、疑問の生じる余地を残さない形で資料を整えていったのです。地味な作業の積み重ねですが、この段階でどれだけ丁寧に準備できるかが、その後の手続の重さを大きく左右します。

その結果、本件では個人再生委員が選任されることなく手続が進みました。個人再生委員が選任されれば、その報酬にあたる予納金を依頼者が別途負担することになり、手続にも相応の時間を要します。綿密な申立てによってその選任を回避できたことは、依頼者にとって費用と時間の双方において、小さくない意味を持ちました。

そして、小規模個人再生においてもう一つ重要なのが、債権者の意向です。この手続では、債権者の一定数または債権額の一定割合以上から反対されると、再生計画が認可されません。本件では、債権者から反対意見が出されることはありませんでした。当方が示した再生計画の内容が、債権者から見ても納得できるものであったことの表れといえます。

本事例の結末

こうして本件は、個人再生委員の選任を経ることなく、また債権者からの反対もないまま、再生計画の認可決定を得るに至りました。依頼者は、圧縮された債務を、無理のない形で計画的に返済していく道筋を手にされたのです。

依頼者にとって、この結果は単に負担が軽くなったという以上の意味を持っていました。「返せるものは返したい」という当初からのお気持ちを、法律の枠組みのなかできちんと形にすることができたからです。免責をめぐる不安に長く悩まされることもなく、財産を手放すこともなく、誠実に返済を続けながら生活を立て直していく。依頼者が望んでおられた道が、そのまま実現しました。

本事例に学ぶこと

借金の問題を抱えたとき、多くの方が「自己破産しかないのだろうか」と考えます。しかし、債務整理の方法は一つではありません。本件のように、安定した収入があり、返済の意思をお持ちの方にとっては、個人再生という選択肢がより適していることがあります。

とりわけ、借入れの経緯に免責不許可事由となり得る事情がある場合、この選択は大きな意味を持ちます。個人再生では、そうした事情の有無が手続の可否を左右することは基本的にありません。破産を選べば免責をめぐって不確実性を抱えることになる場面でも、個人再生であれば、返済を続けるという形で確実に道を開くことができるのです。どの手続を選ぶかという入口の判断が、その後の結果を大きく分けることになります。

もう一つ強調しておきたいのは、申立ての精度が結果を左右するということです。本件では、収入や財産の構造がやや複雑であり、清算価値の評価が問題となり得ました。それでも、事前に財産関係を丹念に整理し、根拠を明確にして申し立てたことで、個人再生委員の選任という追加の負担を避けることができました。裁判所に対して、どれだけ分かりやすく、疑問の残らない形で説明できるか。この地道な作業こそが、依頼者の費用と時間を守ることにつながります。

「収入があるのに借金が返せない」「破産だけは避けたい」「借入れの経緯に後ろめたさがある」――そうしたお悩みを抱えておられる方は、決して少なくありません。しかし、その状況に応じた適切な手続を選ぶことで、望む形での解決にたどり着ける場合があります。どうか一人で結論を出してしまう前に、グリーンリーフ法律事務所にご相談ください。私たちは、皆様のお気持ちとご事情を丁寧に伺いながら、最も適した道筋をご提案してまいります。

弁護士 時田 剛志