紛争の内容
ご相談者様は、主婦として家事を切り盛りする一方で、長年パートとしても務めていらっしゃいました。収入は、扶養の範囲内ということで月8~9万円程度でしたが、これは全て生活費に費消されてきました。

しかし、あるときに、生活費が足りなくなり、消費者金融から少額の借入をしてしまいました。

もともと生活費ぎりぎりの収入しかありませんでしたから、借入への返済がはじまると、家計が回らなくなり、足りない分を借入するという悪循環に陥ってしまいました。

借入総額が十万円単位になった頃、返済に焦っていたご相談者様は、アプリの広告で見た「副業」に興味をもち、少しでも稼いで返済に充てたいと思って広告主に連絡をとりました。

その広告主は「巧みな会話テクニック」でご相談者様を誘導し、契約させ、最終的に情報商材やコンサルティングの代金として約150万円を請求しました。

さらに、その代金の支払方法として、複数の消費者金融から借入をする方法を「アドバイス」し、ご相談者様に多額の借入を一挙に行わせて、その借入金を回収していきました。

ご相談者様は、広告主の「副業で稼げば問題無い(返済には困らない)」「私たちがサポートします」という言葉を信じ込まされていました。

その後、広告主は、ご相談者様に対して、セルフバック(自己アフィリエイト)やSNSでフォロワーを獲得し収益化を目指すといった方法を示しますが、与えられた情報は十分でなく、いずれもうまくいかず、消費者金融への返済金には遠く及ばない収益しか得ることができませんでした。

結局、ご相談者様は各消費者金融への支払いが出来なくなってしまい、弊所にご相談にいらっしゃいました。

交渉・調停・訴訟等の経過
受任後、弁護士から上記の広告主に連絡をとろうとしましたが、登記上清算手続きに入っており、連絡がつきませんでした。

そのため早期に広告主からお金を回収することは難しいとの判断となり、自己破産の手続を進めることになりました。

本件での問題のひとつは、管財事件となること(破産管財人が就くこと)を回避できるかどうかでした。

自己破産には管財人が選任されるケースと、選任されないケースがあります。

この振り分けの基準は、おそらく裁判所ごとに設定されているものと思いますが、さいたま地裁の場合、個人事業主である場合や、回収できるお金(債権)がある場合には管財事件となります。

しかし、本件のご依頼者様の家計は必要費のみでも余剰がほとんどなく、弁護士費用や申立ての費用は何とか工面できましたが、管財人選任のための予納金(さいたま地裁の場合は20万円)を捻出することは至難でした。

そこで、申立ての際に、本件の経緯についてかなり詳細に文書にまとめ、本件は個人事業主に当たるような「副業」ではないことや、債権の回収可能性がほとんど無いこと、免責調査の必要がないこと、予納金を工面することが難しいことなどを丁寧に説明しました。

本事例の結末
本件は同時廃止事件(管財人の就かない事件)として進められることになり、無事免責許可を得ることができました。

本事例に学ぶこと
管財事件となる(破産管財人が就く)ことは全くもって「悪」ではありませんが、本件の場合は生活に窮するおそれがありましたので、予納金納付を回避できて安堵いたしました。

ただ、原則は、管財事件に振り分けられる事情がある場合には、管財人選任や予納金納付を見込んで、計画・スケジュールを組む必要があります。

これからご相談をお考えの方は、ご自身の件で管財人選任があり得るかどうか、ぜひご質問してみてください。

弁護士 木村 綾菜