紛争の内容(ご相談前の状況)
依頼者様は、かつて公務員として勤務し、妻子と共に順調な生活を送っていました。しかし、精神的な病を患ったことで辞職を余儀なくされ、その後離婚に至るという辛い経験をされました。
経済的に困窮した依頼者様は、所有していた自宅不動産を任意売却しましたが、売却額ではローンを完済できず、住宅ローン債権者(原債権者)に対する多額の住宅ローン残債が残ってしまいました。
退職金も、当面の生活費や養育費、転居費用などで費消してしまい、手元にはほとんど財産がありません。
借金の返済は不可能であり、自己破産を決意されましたが、現在の手持ち資金が乏しいため、「できる限り費用のかからない方法で手続きを進めたい」と、当事務所にご相談に来られました。
交渉・調停・訴訟等の経過(当事務所の対応)
自己破産には、簡易な「同時廃止」と、費用(予納金最低20万円)がかかる「管財事件」の2種類があります。本件のように「退職金の使途」や「過去の経歴」が絡む場合、裁判所は慎重を期して「管財事件」に指定する傾向があります。
しかし、当事務所の弁護士は、依頼者様の経済的負担を減らすため、さいたま地方裁判所特有の運用である「同時破産廃止の上申書」を作成し、同時廃止とすべきであると強く主張しました。これは、弁護士の経験値と力量が問われる重要な書面です。
弁護士は上申書において、以下の点を法的に論証しました。
免責不許可事由(浪費等)の不存在
借金の主因は住宅ローンであり、ギャンブルや浪費によるものではないことを主張。精神疾患による退職というやむを得ない事情を説明し、破産法上の「不誠実な浪費」には該当しないことを明確にしました。
退職金の使途の明確化
過去に受領した退職金については、養育費や転居費用、生活費といった必要不可欠な支出に充てられ、既に現存しない(隠しているわけではない)ことを家計収支と照らして説明しました。
資産価値の適正評価
所有している自動車について、初年度登録から多くの年数が経過しており、減価償却期間を大幅に過ぎているため「無価値」であると主張(破産管財人の手引きを引用)。一方で、勤務には不可欠な移動手段であり、依頼者様が保持すべき必要性が高いことを訴えました。
本事例の結末(結果)
弁護士が作成した緻密な「上申書」の内容を裁判所が精査した結果、当方の主張が全面的に認められました。
その結果、本件は破産管財人が選任されることなく、費用負担の少ない「同時廃止手続」として開始決定がなされました。これにより、依頼者様は管財予納金(最低20万円)の支払いを免れることができました。
その後、手続は速やかに進行し、無事に免責(借金の全額免除)が許可されました。多額の住宅ローン残債から解放され、費用も最小限に抑えられたことで、依頼者様は安心して新たな生活をスタートさせることができました。
本事例に学ぶこと(弁護士からのアドバイス)
「同時廃止」か「管財事件」か、それが費用の分かれ道
自己破産において、同時廃止になるか管財事件になるかは、費用の面(約20万円以上の差)でも、期間の面でも大きな違いがあります。
埼玉の運用を知り尽くした「上申書」の力
さいたま地方裁判所には、「同時破産廃止の上申書」という独自の運用があります。微妙な事案であっても、この書面でいかに説得力のある主張ができるかが、同時廃止を勝ち取るための鍵となります。これは、地元の運用に精通し、多数の破産案件を扱ってきた弁護士の腕の見せ所です。
「退職金を使ったから管財事件になるかも」「車があるから管財事件かも」と諦める前に、埼玉の裁判所運用を熟知した当事務所にぜひご相談ください。さいたま地方裁判所の事件は、埼玉の弁護士が詳しく把握しております。年一回の裁判所協議会やコンスタントな破産管財人勉強会など、地道に活動をしているからです。
適切な主張によって、費用と負担を最小限に抑えられる可能性があります。
弁護士 時田 剛志








