紛争の内容(ご相談前の状況)
本件の破産者は、長年IT関係の仕事に従事していましたが、ストレスから疾患を発症し、現在は退職して傷病手当金を受給しながら療養生活を送っていました。
破産に至った主な原因は「株式投資の失敗」でした。
収入を増やそうと始めた投資でしたが、信用取引などで損失が膨らみ、それを取り返そうと更に借入れを繰り返す悪循環に陥っていました。明らかに支払不能の状態でした。
管財業務の経過(当事務所の対応)
当事務所の弁護士は、さいたま地方裁判所より本件の「破産管財人」に選任されました。
本件の最大の争点は、借金の原因が株式投資による浪費であるため、法律上の「免責不許可事由」に該当し、借金が免除されないのではないか、という点でした。
破産管財人として、以下の通り厳格かつ慎重な調査を行いました。
・財産調査
配当できる原資が確保できるかどうか、綿密に転送郵便物なども踏まえ財産を調査しましたが、目ぼしい資産はありませんでした。そのため、異時廃止により破産手続は廃止となりました。
・免責不許可事由の認定
証券口座の取引履歴を精査した結果、破産者の収入や資産状況に照らして明らかに過大な取引が行われており、その結果として著しい財産減少を招いたことが確認されました。これについて管財人は、破産法第252条第1項第4号の「浪費(射幸行為)」に該当し、原則としては免責が許されない事案(免責不許可事由がある)であると認定しました。
・裁量免責の検討と生活状況の調査
しかし、破産法には、たとえ免責不許可事由があっても、諸事情を考慮して裁判所の判断で免責を認める「裁量免責」という制度があります。
管財人は、破産者との面談や生活状況の調査を通じ、以下の点を確認しました。
本件が初めての破産であること。
弁護士介入後は投資や借入れを一切やめ、二度と手を出さないと誓約していること。
現在は療養に専念し、限られた手当の中で質素に生活し、経済的更生に向けて努力していること。
管財人の調査に対して隠し事をせず、誠実に協力していること。
本事例の結末(結果)
調査の結果、本件は形式的には免責不許可事由(浪費)に該当するものの、破産者の反省の態度や現在の生活状況、更生の可能性を総合的に考慮すれば、免責を認めるのが相当であると判断しました。
破産管財人は、裁判所に対して「裁量免責相当」とする意見書を提出しました。
これを受け、裁判所は管財人の意見を採用し、破産者に対して免責許可決定を下しました。これにより、破産者は約1000万円の借金の支払義務を免除され、人生の再スタートを切ることが認められました。
本事例に学ぶこと(弁護士からのアドバイス)
「投資やギャンブルでの借金は自己破産できない」は誤解です。
株式投資、FX、ギャンブルなどで作った借金は、法律上の「免責不許可事由(浪費)」に該当します。しかし、それで直ちに「破産できない(借金が消えない)」わけではありません。
「裁量免責」の鍵は、正直さと反省です。
本件のように、たとえ巨額の損失があっても、正直に申告し、二度と繰り返さないという反省の態度を示し、かつ破産管財人の調査に誠実に協力することで、裁判所の裁量による免責が認められるケースはあります。
弁護士 時田 剛志








