紛争の内容
1 多重債務のきっかけ
依頼者は、協議離婚することになり、妻とは、子供二人の養育費として、それぞれ5万円ずつ負担し、私立中学に進学した長女の学費を負担する約束をしました。
しかし、離婚直前に、脳梗塞を患い、3か月入院したため、当時のケーブルテレビの営業の仕事ができませんでした。
離婚の条件であった長女の私立中学の学費の負担のため、消費者金融から40万円を借りました。
依頼者は、退院した後、自営業を再開し、年収(売上)は500万円くらいでした。
その事業の経費としては、事務所兼自宅としていましたので、その経費、交通費、取引先との接待(会食)などの、交際費の支出がありました。
2 コロナ禍でのケーブルテレビ営業の廃業
ケーブルテレビの営業は、個々のお宅や会社に訪問営業しますが、コロナ禍で、訪問活動は全く不可能となりました。
ケーブルテレビの営業とは、追加でのCS契約やNet契約を締結してもらうことですが、訪問営業が不可能となりましたので、令和3年中に、仕事は終わり、翌4年6月に、ケーブルテレビ営業の廃業届を提出しました。
その後は、友人の事業の手伝いをして、手間賃を稼いでいたとのことです。
3 新型コロナウィルス罹患
しかし、依頼者は、令和3年7月末頃、(初回の)コロナ陽性となり、救急車で運ばれ、2週間入院しました。
退院後は、体調が回復せず、仕事ができませんでした。そこで、生活のために、カードキャッシングに頼りました。
4 コロナ禍での新たな事業の立ち消え
伝手のある方から、消毒液の販売事業や太陽光発電による電力の蓄電池の販売会社(一次代理店)の勧誘業務の仕事にも当たりましたが、いずれも事業としてうまくいかなかったとのことです。
その他は、生活費を稼ぐために、日雇い派遣で、様々な仕事に就いたそうです。
令和5年には、コロナ貸付として、120万円を借受けました。
5 ウーバーイーツの配達員業務中の転倒事故、生活保護受給
依頼者は、令和6年2月、2回目のコロナに罹患しました。
1週間ほど自宅療養しました。
1回目のコロナの後遺症的な状態がありましたが、二回目を経験しても、それは悪くはなりませんでしたが、筋力体力の衰え(回復しないこと)や、鬱の症状が悪化しました。
依頼者は、二回目のコロナに罹患する前の、令和5年2月からウーバーイーツの配達員として、実際に稼働し始めていました。一月で多い時でも20万円は稼いだとのことです。
コロナによる体調不良がなければ、40万円くらいは稼ぎ出せるのではないかという感じでいた。
令和6年2月末に、ウーバーイーツ配達員として、50㏄スクーターを運転中に、前方の車両を回避するために、急制動したところ、転倒し、ろっ骨を骨折しました。
これでは、ウーバーイーツの配達員の仕事はできません。
結果、市役所福祉課に令和6年3月11日相談し、13日に受給申請をし、受理されました。
6 体調回復が進まないこと
コロナ禍でのケーブルテレビ営業が事実上不可能となったことから、転業を考えていました。
そして、新型コロナウィルスに2度も罹患し、入院治療、在宅治療を受けて、体調が回復しないことがこれほど続くとは思いもよらなかったとのことです。現在も、体調は安定しないとのことです。
依頼者は、体調が回復したら、改めて、仕事に就くつもりとのことです。
交渉・調停・訴訟などの経過
依頼者は、生活保護の受給を受けてから、当事務所の債務整理の電話相談を受け、来所されました。
法テラスを通じた法律扶助により、自己破産の弁護士費用の立替を受けました。
本事例の結末
依頼者は、正式依頼の数カ月前まで、ウーバーイーツの配達員として、稼働していました。
収入は乏しかったとはいえ、自営業者でありましたので、管財事件として扱われるかという問題がありました。
しかし、依頼者の、ウーバーイーツの配達員として稼働していた収入(売上)は明確であり、また、未収の売り上げは発生していませんでした。
そこで、裁判所は、同時廃止事件として処理しました。
そして、速やかに免責許可の決定も出ました。
本事例に学ぶこと
生活保護受給を受け、依頼者自らが、当事務所の債務整理相談を受けたものです。
依頼者は精神疾患を患い、就業困難な状況でしたが、申立書類の準備も滞りなく、早期の申立てがかないました。
破産申立に至る経緯に不明朗な点もなく、また、新型コロナウィルス禍における破産事案と評価できるものでした。
依頼者は、体調が回復すれば、仕事につきたいと就業意欲にも富んでいました。依頼者の経済的な再出発のために、免責の利益が与えられるのは当然といえます。
事案としては特段の問題はなりませんでしたが、依頼者の経済的再生の手助けをすることができました。
弁護士 榎本 誉