紛争の内容
債務者は年金受給者であり、その生活費不足分を生活保護費で賄っている方でした。
ただ、その申立前の3年間余りのうちに、相続した遺産不動産の売却金の残金3000万円以上を費消しつくしていたことから、その売却金の使途などの調査も指示された破産管財事件です。
交渉・調停・訴訟などの経過
(1)破産者との面談
破産者、申立代理人と面談し、遺産不動産を相続した破産者が不動産を売却し、その売却金を最寄りの金融機関に定期預金として預けるも、解約払い戻しを繰り返し、2年余りで費消し、破産申立に至った事情について、資料を添えて改めて報告するよう求めました。
(2)遺産不動産売却金の使途報告
破産者からの報告によれば、破産者が友人知人との外食での飲食代の総額負担をした総額は、金2515万8154円相当に上るとの申告がなされました。
それ以外には、親族への交付金がありましたが、破産者としては、当該親族からの永年の援助に対する謝礼の趣旨であり、その援助額は交付金を優に超えるとのことでした。
この交付金は、贈与者である破産者、受贈者である親族にも、当時において、経済的破綻を予期することは到底期待できなかったであろうから、特に詐害性は認められないと判断できました。
他方、3人の方への貸付金があるとの申告がありました。
うち一人のみ、住所などの連絡先が判明しましたので、その方宛に、貸付金の返済を求める請求書を発するともに、債権債務関係の確認、返済医師などを問い合わせました。
その方から回答がありましたが、返済資力があるとは思えず、貸付金の早期回収は困難と判断しました。
その他の2名の方は、住所氏名も判明しない方でしたので、これも回収は不可能です。
そして、転送郵便物から、破産者の保険契約の同保険料についての信販会社の立替払いを利用していることが判明しました。
破産者に対しては、本保険を維持するなら、立替払ではなく、銀行振替などへの変更を促しました。
破産者は、本保険は信販会社のクレジットカード付帯の保険であること、破産者は77歳と高齢であり、新たに保険加入は困難と予想されることから維持したいこと、生活保護受給者であるも、自助努力は維持すべきであること、本保険料支払いは月額630円と低額であること、本カードによる立替払は同保険料支払いだけであることから、その維持を強く望んでいました。
破産管財人としては、当該信販会社が立替えた保険料の破産者の支払は、偏頗不公平な弁済に当たりますが、本保険料負担だけであれば、偏頗弁済としての、他の債権者を害する程度は極めて低いこと、他方、本保険契約を維持する破産者の必要性は高いと認識されることから、その維持を否定せず、また、免責を不許可とするまでの不相当性はないと判断しました。
そして、破産者は、破産者自筆の反省文を作成され、管財人宛に提出しました。
そして、家計の状況を確認しますと、破産者の生活は、基本は年金で賄い、不足分を生活保護費の受給を収入としていますが、毎月1万円を超える繰越額を出すくらい、堅実な家計のやりくりを実現していることが認められました。
本事例の結末
そこで、破産管財人としては、本破産者には、遺産不動産の売却金という、自己の財産であるとはいえ、2500万円以上の金員を自身の飲食費の負担だけでなく、友人知人でもない方の飲食代も肩代わりし、2年ほどで費消つくしたのは、免責不許可事由の浪費以外のないものです。
他方、多額の現金を費消つくしたのちは、年金、生活保護費で堅実に生活されていることが確認できました。
また、浪費だった生活をよく反省していることもわかりました。
そして、親族の情報や旧来の知人である貸付けた相手方の情報も正直に報告し、管財人への協力の態度も好ましかったです。
これらを総合考慮して、裁判所には、本破産者の経済的更生のために、裁判所の裁量で免責を許可するのが相当という、意見を述べました。
破産裁判所は、破産者に対して、免責を許可する決定をしました。
本事例に学ぶこと
数年前には数千万円の預金を有していた方が、2年余りに出費消つくした事案でした。
その後、短期間に3000万円弱がなくなりましたので、最初は、いわゆるロマンス詐欺被害者であり、その事実を明らかにしえず、浪費したと申告したのかと疑いました。
しかし、遺産不動産を売却した代金は、仲介手数料、登記費用などを支払い、墓仕舞いを行い、法事を執り行うなどした残金のうち、2500万円を超える金額を友人、知人、そして、友人でも知人でもない方との酒食を伴く飲食代に負担したものでしたが、破産者が持ちつけない大金を保有していることを知った周囲の方から、たかられたように認識しました。
破産者においては、短期間で、数百万円から数千万円の多額の負債を負う方が散見されます。
オンラインカジノに夢中になった方、FXや仮想通貨取引で多額の損失を出した方がその例です。
しかし、3000万円の自己資金をわずか2,3年で費消しつくした本件は、破産債権の総額が100万円未満でしたので、逆の意味で印象的でした。
破産申立てやむなしとなる方は、いろいろなタイプの破産申立に至る事情があります。
ご相談ご依頼を受けた場合には、相談者依頼者の事情をよく聞き取り、免責不許可事由が認められようであっても、裁量免責の獲得に向けて、最大限の努力、協力を行う所存です。
弁護士 榎本 誉