紛争の内容(ご相談前の状況)
「司法書士に依頼してから5年も経ったのに、『これ以上進められない』と急に言われました…」
当事務所にご相談に来られた依頼者様は、長期間にわたり借金問題に苦しみ、さらに依頼した専門家との連携が取れなくなるという、二重の苦しみを抱えておられました。
発端は、約10年前に新卒で就職した飲食店がいわゆる「ブラック企業」だったことでした。長時間労働と残業代未払いで心身ともに限界に達し退職。実家に戻る際の転居費用(約16万円)を消費者金融から借りたのが、最初の借金でした。
その後、アルバイトを転々としながら返済と生活費のための借入を繰り返し、お父様がご病気(小腸切除)で倒れられた際、入院費の足しにと内緒で借入れをするなど、苦しい状況が続きました。
一度は弁護士に任意整理を依頼し、返済のために就職もしましたが、再びお父様が心不全で倒れられ(入退院の繰り返し)、ご自身の生活も困難に。返済が難しくなり、約5年前に司法書士に自己破産を依頼されました。
しかし、その司法書士との連携がうまくいかず、時間だけが過ぎてしまいます。破産手続が進まないまま5年が経過した頃、突然「進められない」と告げられ、当事務所に駆け込んでこられました。
交渉・調停・訴訟等の経過(当事務所の対応)
ご依頼を受けた弁護士は、まず5年間も停滞していた状況を整理し、迅速に裁判所への申立て準備を開始しました。本件の最大の焦点は、依頼者様の費用負担を最小限に抑える「同時廃止手続」で進められるか、という点でした。
同時廃止手続とは、破産管財人が選任されず、裁判所が免責(借金の免除)を決定する手続です。これが認められれば、破産管財人の費用(さいたま地裁では最低20万円)が不要となります。
弁護士は、依頼者様の現在の家計状況を詳細に確認。司法書士に依頼して以降、新たな借入れは一切行っておらず、現在は飲食店に正社員として勤務し、婚約者様と支え合いながら真面目に生活を再建しようと努力されていることを示す家計管理表を作成しました。
そして、借金の経緯についても、ブラック企業での疲弊や、ご家族の病気といった「やむにやまれぬ事情」が大きかったことを、裁判所に対し丁寧に説明する申立書を作成しました。
本事例の結末(結果)
弁護士による詳細な申立書と、現在の家計状況が安定していること、そして依頼者様の反省の態度が裁判所に認められました。
その結果、本件は「破産管財人」が選任される管財事件とはならず、費用負担の最も少ない「同時廃止手続」として開始されました。
これにより、依頼者様は管財予納金(最低20万円)を支払う必要がなくなり、裁判所が定めた手続を経て、無事に免責(借金の全額免除)が許可されました。
5年間も停滞していた問題が、当事務所へのご依頼から短期間で、かつ最小限の費用負担で解決し、依頼者様は本当の意味での経済的再スタートを切ることができました。
本事例に学ぶこと(弁護士からのアドバイス)
「同時廃止」で費用を抑えるには、丁寧な申告が不可欠
自己破産には、管財人が選任される「管財事件」と、選任されない「同時廃止」があります。費用を抑えられる同時廃止で進めるためには、借金の経緯に大きな浪費やギャンブルがないこと、そして現在の家計がきちんと管理されていることを、弁護士が裁判所へ的確に説明する必要があります。本件のように、やむを得ない事情で借入れが始まった場合でも、諦める必要はありません。
依頼した専門家が動いてくれない時は、セカンドオピニオンを
本件のように、弁護士や司法書士に依頼したにもかかわらず、何年も手続きが進まないというケースは、残念ながら存在します。破産手続は、債権者との関係や時効の問題もあり、長期間放置すべきではありません。「依頼しているから大丈夫」と安心せず、もし対応に不安を感じたら、別の専門家にセカンドオピニオンを求める勇気も必要です。
弁護士 時田 剛志








