会社が破産するのに伴って賃貸借契約を解除し、会社が借りていた工場を明け渡すことになりました。会社操業中に壊してしまった壁の修理費は全額支払わなければなりませんか。

この問題は、賃貸人が賃借人に対して有する原状回復請求権(その物件を、貸し渡した当時の状態に戻すよう請求できる権利のことです)が、破産法上の財団債権にあたるかどうかによります。仮に財団債権にあたるのであれば、会社は、オーナーさんから請求を受けた時に修理費を全額支払わなければなりません。

この点、破産法が財団債権という優先的に弁済を受け得る権利を認めたのは、それらの債権が破産手続全体の利益になる共益的性格を有しているためですが、原状回復請求権は、そうした破産手続全体の利益になる共益的性格を有する債権とはいえません(物件のオーナーさんの利益にはなりますが、他の債権者も含めた全体の利益になるとはいえません)。
そのため、原状回復請求権は、同号の定める財団債権にあたらず、通常の破産債権であると考えられています。

従って、設問のケースでも、会社が操業中に壊してしまった壁の修理費は、明け渡しの際にオーナーさんから「全額すぐに支払って下さい」と言われても、支払う必要はありません。オーナーさんには修理費用相当額を債権として届け出てもらい、破産手続きの中で配当という形でお支払いすることになります。

なお、会社が敷金を差し入れている場合は、オーナーさんはその敷金から修理費等の原状回復にかかる費用を差し引くことができますので、結局、敷金の範囲内では優先的な回収が図れることになります。